自己の言語回路からの自由へー九鬼周造著『日本詩の押韻』私解ー/狸亭
 
間ともに制約の中にあるし、親子、交友関係も
まして男と女、夢との関係すら、どうしようもなく限定される。不倫の恋も、世界の名著
との出会いも。死があるから生がある。人は死ぬことによってその個々の生を確定するの
だ。制限があるから、人は無限の自由を夢想する。言わば有限の意識をバネとし中身の濃
い自由を獲得できる。
 一方で、古来より人は対立する概念を持ち続けて来た。天と地、男と女、善と悪、高い
安い、白と黒、恍惚と不安、等々。これらのアントニムは無数のシノニムと合わせてかぎ
りない興趣をかきたてる。太宰治の小説に「罪と罰」はアントニムかシノニムかという問
い掛けがあって面白い。


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