鱗坂/岡部淳太郎
差しで少年を見て、この新しい迷信のために沈黙を開いた。坂の傍らに並び立つ松の木の実は、ただ微かな風に揺れるだけで、いつもと同じありふれた凪の昼に、落ちるはずのないわが身を悔いていた。
*
無数の魚の鱗で光る坂道。それは敷きつめられ磨き上げられた道のようであり、空へつながるゆるやかな通路のようでもあった。少年は鱗を拾い集め、それを小さな掌に掴んでは零し、またそれを拾い上げ、腰の曲った老人のように、ゆっくりと歩いていた。路上に横たわる死魚のそれのように、少年の首筋がもうひとつの呼吸のようにぴくぴくと上下した。繰り返すことを厭わない愚かさの中で、少年は成長しつつあった。いつもと同じありふれた
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(6)