鱗坂/岡部淳太郎
 
ちることなく、執念のようにぶら下がっていた。路上には鱗が、ただ光を反射するだけの鱗が、無数に散らばっているというのに、そうまでしてつかまっている、濡れることのない信念。少年は、彼は遠い昔に母を亡くしているのだが、夜毎寝床を濡らしながら、純真な後悔を育てていた。少年が歩く、突端に向かって上る坂道。それは淡い物語のために用意されてあった。濡れるはずのない空。それは、歌を吐き出した後の痛みで、純粋に乾いていた。



空の雲が翼のように見えた朝。そこに飛ぶ鳥の姿はなく、坂には大量の魚が打ち上げられていた。振り返る暇もない生乾きの死。魚たちの鰓はまだ微かに動いており、少年は胸を上下させて、ひたす
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