遠い猫/チアーヌ
のだ。
中を覗くと、夫はいなかった。そうだ、とわたしは思い出した。夫は出張に行くと言い残してここ二週間くらい留守にしているのだ。
ということは、なぜか猫だけ置きに来たのだろうか。夫は忙しい人間だから、そういうこともあるかもしれない。
にゃーん、にゃーん。
猫は甘えたような声で鳴き、わたしの足元にすりすりと体を擦り付けた。わたしは猫を抱き上げた。ずっしりと重い、丸い顔をした可愛い猫だった。
「うんち」
猫ははっきりと言った。そしてまた、にゃーん、と鳴いた。
「え、うんち?」
わたしは慌てた。家の中には当然ながら、猫のトイレや猫砂なんてない。
「困ったな。ちょっとまって!」
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)