臭う家/千月 話子
 

ムロアジを使い古した塩水に漬けて干した
臭い魚が 食べたくなる
  ただ、漠然と食べたくなるだけだ・・・

「この、あまのじゃくめ!」と 家出した猫は
私の心を読み取って 低い声で鳴くだろうか
お前が居ないと 冗談も口の端からこぼれて
行き場なく虚しいばかりだ

窓辺で揺れる原稿用紙には、
魚の匂いが染み付いて 明日には
茶色の染みが  くさや
と言う文字になって浮き出てくるのだろう
やはり、詩を書いてみようか



十日たった今日の風は、あまりに強く
夕食で食べる 納豆の糸を
千切っては千切って 窓の外へ連れて行く
細い燈し火に照らされた
長く尾を
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