臭う家/千月 話子
 
尾を引くホタルのようだ

それでも窓を閉じずにいるので 原稿用紙から
多分 無臭の糸文字が生まれるのだろう

  

  夏十日過ぎ あきらめの心が
  細い草矢を 夜に放つ
  その先に 二つ星
  希望と言う 君と私を浜に落とす
  塩の水に 絡まった
  いつまでも取れない二人の 海風
  辿るように 空を嗅ぐ
  

詩が 生まれた。



ここ数日間 うるさいばかりのスズメの声が
ピタリと止んだ 十一日目の多分、昼頃

少し開いた窓の隙間から 
おお、おお と風が呼ぶのか
原稿用紙に点々と付けられた 小さな足跡
まるで出席簿のように 真ん中が空白で
家出猫の奇妙な行動も
今は、笑って許せる許容範囲だ

毛むくじゃらの家猫が子猫を連れて帰ってきた日
あまのじゃくな私が子猫に付けた
臭い匂いのする食べ物の名前 呼ぶ度に
彼女が横目でチラリと見ても 口の端で笑い返す

そうして。。。 この家は今日から
日向の匂いがする 家になる


  


戻る   Point(18)