吉岡実(奇怪な絵画)/岡部淳太郎
 
い「大いなる音楽」であるだろう。そして最終行でようやくこれらの静物たちは動く。「ときに/大きくかたむく」のだ。それは動かないでいる静物が、動くことによって静物から生死の大きな連環の中へと入ってゆく一瞬なのかもしれない。だが、その動きも目に見える動きであるとは確実には言えないかもしれない。それは「そのまわりを/めぐる豊かな腐爛の時間」と同じようなまぼろしの動きであるのかもしれない。だが、説明的詩行はいっさいなく、ただ詩全体が一枚の絵画、それこそ静物画のように表現されている。
 この詩を手がかりとして、この時期の吉岡実の詩をやや乱暴に、絵画的な詩であると言ってしまいたい。あの有名な「僧侶」でさえも、
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