あの日、飛び越えた五線譜を/霜天
 
忘れない
高い小さな窓から覗き込んだ時間を
校舎の隅、零れていた笑い声の隙間に混ざった寂しさを


夏だった
世界がゆっくりと溶けていくまでの時間を
知らない、知ることもない
あと少し、もう少しだと
どこかで信じている体の隙間を
埋めるように手を当てた
胸のあたり
僕らが心臓に気付ける場所

戻り過ぎるということはない
あの頃、世界は確かに溶け出していた
両手を広げて、目を閉じると
僕だったものがぽたぽたと零れ落ちた
振り返ると数えられないほどに遠くまで
僕らが水に戻るまでに
あとどれだけの距離だろう

あの日、飛び越えた五線譜を
なぞってみても声は聞
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