ボクサーズ/マッドビースト
を上げる必要はないんだ
目の前の相手さえ見ていればいいんだから
腕を下げては駄目だガードを堅く
体の真中の蒼白い揺らめきを打ち崩されないように
それどころか誰にもその存在を知られないように
この街には観客はいない
誰もがリングに上がる
あるときは打ち勝ち
またあるときは打たれる
ボロボロにだ
それでも誰もこの街から離れはしない
ロッカールームはそれぞれの心の中だ
汗の臭いが染み込んでいる
狭くて湿気ていて錆びたロッカーがあるだけの小さな部屋で
打たれまくった日には泣く
誰にも見られることはないから大声で泣くんだ
汗と同じだけの
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