ボクサーズ/マッドビースト
 
けの涙を流したら
 パーカーを深くかぶって出ていく
 同じように戦って帰ってくる家族が家で待っている

 友人や家族であっても他人のファイトを見たりはしない
 自分ひとりで戦う
 セコンドも自分
 血の噴き出した傷を応急処置するのも自分
 レフェリーも自分だ
 相手のことを見たりはしない
 それでもたまにインターバルでコーナーに戻ると
 向こう側のコーナーに座ってる相手と目が合う
 大粒の汗が体中を伝って流れる
 両肩が呼吸に合わせて激しく上下する
 そいつも同じ顔をしていると気づくんだ
 
 俺は今日で9925回目のラウンド
 まだこのリングでは新入りだ
 コーナーを出ていく
 顎を引いて
 体を低く
 拳を固めて
 思い切り打つだけだ
 打たれて顔を歪めながら
 足を前に出し
 拳を振るうだけだ


 一日が終わると
 履きつぶれたスニーカーのようになって駅へ向かう 
 プラットフォームで
 返り血を浴びたように真っ赤に染まり
 夕日の中電車から降りてくるチャンピオン達とすれ違う
  
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