贋者アリスの洞窟の冒険/佐々宝砂
ら、そうよ、ここは、愛を語るにふさわしい暗闇。
あたしはランタンを手に、歌いながら石の階段を降りてゆく。歩くにつれて闇は濃くなってゆく。あたしの手は次第に腐食し、黄土色になり、灰色になり、爪先からぽろぽろと崩れてゆく。赤いマニキュアを塗ってあったからいけないんだとどこかで声がする。おまえの指は切り落とされるべきなのだとどこかで声がする。しばらくするとあたしの指はすっかりなくなってしまい、あたしはランタンを取り落とした。
闇。
一歩踏み出すと、あたしは落ちた。どこまで? どこまで? 落ちきってしまうまで、あたしには、わからない。あなたにも、わからない。
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