贋者アリスの洞窟の冒険/佐々宝砂
上へと通り過ぎてゆく景色。見覚えのある風景。古ぼけた全集本の並ぶ書棚。埃っぽい市松人形の首ばかりが揃えられた棚。空っぽの広口ビン。壁から草のように生えた無数の口吻。灰色の指。そこに塗られているどぎつく真っ赤な口紅とマニキュア。それを見てあたしは確信する、あたしは間違えてはいない、あたしは確かに正しい道を進んでいるのだ。
歌い続けながら、あたしはにぎやかに着水した。
あたしが落ちたからといって水は波紋をつくろうとはしない。水面は鏡のようだ。そこにうつっているのは、いじけたハコベ。緑色のこびと。うつろな木材。双頭のゼニガメ。それから、けたたましい鳴き声をあげて走るドードー鳥。サーベルタ
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