贋者アリスの洞窟の冒険/佐々宝砂
ねるひとは死になさい。苦悩できるひとは苦悩しなさい。ここはとてもあかるい。あかるいけれども、それは終末のこのましいあかるさではない。魔術と手妻だけがのこって荒野をいろどる。
さようなら!
ああ、あたしは誰に別れを告げているのだろう。
まひるのあかるいまったいらの荒野にぽかんと口をひらいている地下への入口。そのさきにあるものが何かあたしは知っている。それについて話してはいけないのだということをあたしは知っている。あたしはあたしを忘却し、地下に降りてゆく。
洞窟の入口には両面宿儺が鎮座している。こっちがわに見せた額には怒りの皺が寄っている。あたしは両面宿儺の腹を思い
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