贋者アリスの洞窟の冒険/佐々宝砂
 
色のベルト。薄汚れた茶色なベスト。彼が身につけているすべてはまがいもの、でなければ借り物、彼は妖精の里を昨日出奔したがゆくあてはなし、かといって彼は人里にも馴染めない。なぜってそこでは毎日毎時教会の鐘が鳴り響くからだ。

何かほしい?と訊ねたら緑色のこびとは黙って首を横に振った。

頭上では時計のかたちをした月が光っている。あたしは詩を書かなくちゃならない気がするのだけど書けないからただたらたらと灰色の糸を紡いで灰色の布を織ってゆく。つむで指を刺したらきもちいいかしらとふと思ってつむを見ると、それはまだらの蜘蛛に変わっている。それは毒蜘蛛じゃなくて小さな赤い眼を八つ持った愛らしい生き物
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