描夜(指)/木立 悟
 
    


気づくと右手は濡れていて
描きはじめたばかりの夜に
銀色の線を引いてしまった
見る間に乾く三日月の下に
明日の朝には消えてしまう
羽や光を書きつらねていた


隠された泉の歌
滴を巡る花の歌
夜の淵からこぼれ
海に沈み
海に笑む


波の笛 波の嘆き
遠く 丸く 取り囲む魚
触れては崩れ よみがえる
羽の生えた指のかたち


次の雨が来るまでに
鳥はできるかぎり鳴き
水が残した銀を浴びる
光は音のなかにあり
音は
色のなかにある


枝につらなる火の牙が
火の葉に 火の旗になりながら
夜の耳のうしろにささやく
雲の
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