沈黙翻訳家/後期
 
、音だけだ。
呼吸。椅子の軋み。指先の微かな震え。
どちらも、同じ沈黙に見える。

私は初めて、沈黙が誤訳されることを知った。



裁判に呼ばれた。
沈黙裁判だ。

検察官が言う。
「あなたの誤訳が会社を破綻させた」

私は答える。
「沈黙には原文がありません」

検察官は笑う。
「翻訳者の言い訳だ」

裁判長が尋ねる。
「あなたは沈黙を断定したのですか」

私は首を振る。
報告書には書いてある。

解釈A 65%
解釈B 30%
不明 5%

沈黙翻訳には信頼度がある。
医師の診断書のようなものだ。

裁判所は結論を出した。
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