沈黙翻訳家/後期
人は言葉で嘘をつく。
沈黙は嘘をつくのが下手だ。
そう信じていた。
※
三年前、沈黙の誤訳事件が起きた。
会社の会議室だった。
社長は九分間、何も言わなかった。
役員たちは私に翻訳を依頼した。
録音を聞く。
浅い呼吸。
椅子が一度だけ鳴る。
指が机に触れる。
私は書いた。
「この計画は危険だ。
だが、私は反対する勇気がない」
会議記録に残り、計画は実行された。
一年後、会社は倒産した。
社長は後に言った。
「私は賛成していた」
沈黙の意味は逆だった。
恐怖の沈黙も、確信の沈黙も、形は同じだった。
私が見るのは、音
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