Air/岡村明子
して
上げた視線の先に
銀杏に彩られた金色の空ばかりがまぶしい
曲はいつのまにか
チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレに変わっていて
失いかけた言葉を取りつぐように
時間を共有することを助けている
男は黙って通りを歩く人々を眺めている
何気なく見ていた
その目
その眉その鼻その頬その顎その耳
その髪に
触れたい
と思った瞬間から
はじまってしまった
3年前のあの日
歩き出した私たちに
BGMはもういらなかったのだが
舞台装置を取り払って埋め尽くされた言葉の中には
傷つけ合うものも少なくなかった
お互いの存在だけが信じるものであったあの頃
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