河童伝・第一話「河童三郎譚」/板谷みきょう
むかし、むかし……と語るには、あまりに生々しい頃の話でございます。
山あいの村に、ぬらくら川という名の川が流れておりました。春になれば雪代が荒れ、夏には深みが増し、秋には底知れぬ色を帯び、冬には凍ることもなく、ただ黙って流れ続ける川でございました。
その川には、河童が棲む、と申します。
もっとも、村人の誰も、はっきりと姿を見た者はおりません。ただ、牛馬の足が引かれた跡、夜更けに聞こえる水音、朝になると並ぶ、三本指の濡れた足跡……そうしたものを総じて、人々は「河童の仕業」と呼んでおりました。
ある年のこと、川が村を試すように牙を剥きました。
大雨でもないのに水が増し、堤
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(1)