母さんはね(修正版)/板谷みきょう
罪符にしていた。
本当に聞くべき沈黙を、聞こうとしなかった。
見ようとすれば見えたはずの陰りに、“元気な息子”の仮面を勝手に貼りつけていた。
暫くの沈黙に夫は、息子の顔に頬を寄せた。
その頬に、ぽとり、と涙が落ちた。
その涙だけが、温かかった。
それだけが、この部屋で唯一、生きている証のようだった。
けれど、
そのぬくもりに気づくことは、もう、あの子にはできない。
テレビの向こうでは『全員集合』の笑い声が。
世界は、息子がまだこの家のどこかで笑っている前提で、軽やかに続いていた。
わたしは膝をつき、息子の手を握った。
小さな指先は、あまりに静かだった。
「
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