母さんはね(修正版)/板谷みきょう
 
嫌な音が胸の内側でひび割れる。
わたしは夫を押しのけて部屋へ入った。
暖かいはずの空気が、なぜか冷たく、足首に絡みついた。

いつもは鉛筆の匂いや洗い立ての布団の匂いがする小さな部屋が、
今夜は、時間が凍りついた絵画のように沈黙していたのだ。

机の前の椅子に、息子が座っていた。

その姿勢は、不自然で、あまりに静かで??
声が出なかった。

灯されたデスクライトだけが、机の上を白く照らしていた。

開いたノートが視界に飛び込み、黒い文字が胸に突き刺さる。
『パパ やくそく まもってくれない』
『いつも あとでっていう』
その上には、何度も消そうとして書き直した消
[次のページ]
戻る   Point(0)