灰色の鬼(修正版)/板谷みきょう
わたしに「こんにちは」と言ってくれたなら……?)
その「もし」は、鬼の胸に、小さな灯のようにともりました。息を吹きかければ消えてしまいそうな弱い光でありましたが、鬼が生きてきた長い年月で、誰かに灯してもらったことのない――初めての光でした。
けれど親子はすぐに見えなくなり、風はまた、ひゅる、ひゅる、と吹き、獣たちは深い黙りへと沈みました。
灰色の鬼は、その「もし」を胸に抱いたまま、ゆっくりと村へ歩き始めました。どうしてそうしたのか、自分でもわかりません。けれど、胸の灯が、そっと“生き物の居る方へ”“声の有る方へ”鬼の足を押すように、揺れていたのです。
村の明かりが、ぽつり、
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