灰色の鬼(修正版)/板谷みきょう
、風の歌が途切れたあとの沈黙はもっとつらいものでした。獣たちが一斉に気配をひそめてしまったような、重たく冷たい――獣たちの沈黙。その沈黙に包まれると、鬼はいつも心の中でつぶやきました。
「……わたしは、誰からも呼ばれない。」
そんな冬の夕暮れのことです。灰色の鬼は、山道を下る人間の親子を見かけました。子どもの手は赤く、母親はその小さな手を包むように急いでいました。
ふいに、幼い子がふり返りました。その目が、一瞬だけ、鬼に触れたように思えました。怯えではなく――何か、涙をこらえているように、微かな温もりが混じっていたのです。灰色の鬼は胸をつかれました。
(もし、あの子が、わた
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