狐の見た幻/板谷みきょう
 
人魚に対して、初めて知る真実の恋を抱いてしまったのです。
「あなたも、たいせつな人の幸せを願って来られたのでしょう。」
人魚のその言葉は、狐の胸を静かに打ちました。


偽りであることを告げれば、人魚の優しさと夢を、一瞬で汚してしまう。


狐は真実の残酷さから人魚を守るため、恋の終わりという、深く静かな犠牲を受け入れました。
狐は何も語らず、人魚の手にそっと手を重ねました。


その指先に込めた想いは、確かに人魚の心に届いたのでした。
夜が深まり、静かな渚には、冷たい狐の体が横たわるばかりです。


人魚は狐の体を抱き、やわらかく囁きました。
「あなたの探し求め
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