狐の見た幻/板谷みきょう
求めた幸福は、もう、あなたの胸の中にありますよ。」
その声が響くと、偽りの姿を保っていた最後の力が尽き、少年のかたちは音もなく崩れ、小さな狐の体が残されました。
人魚はその真実を見つめながらも責めず、静かに抱きしめました。
「さようなら、哀れで、いとしい人。あなたの夢は、わたくしが海の底で、そっと守りましょう。」
人魚は、偽りの中で生まれた真実の恋と、狐の孤独のすべてを胸に抱き、ゆっくりと海へ沈んでいきました。
朝が来る頃、渚には、ひっそりと眠る一匹の狐が残されていました。
海だけが、その秘密を知っているのでありました。
※原作「狐と人魚」を修正しました
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