狐の見た幻/板谷みきょう
 
水底から人魚が昇り、狐を抱き上げました。


人魚の心は世の汚れを知らぬ無垢そのもので、目の前の姿を、純粋な憧れを抱くまことの少年だと信じて疑いません。


人魚は狐をそっと夕陽の渚へ運び、静かに目覚めるのを待っていました。
潮がゆっくりと引いた頃、狐の目がわずかに開きました。


傍らに座す人魚の姿は、あまりにも清く、美しく、手の届かぬ憧れそのものでした。
狐は、自分がまだ少年の姿であることに、胸が張り裂けそうな安堵を覚えます。


しかし、やわらかな人魚の眼差しに見つめられ、言葉にならない痛みが胸ににじみます。


偽りの皮を被っているにもかかわらず、この人魚
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