正風亭第二幕/武下愛
 
戴きたく存じ上げます。教わった全てが有り難き幸せな事ですと。何故、御亡くなりになられる前に。弱音の一つも零さず送りだしたのでしょうか。私等放って何も教えずご自愛くだされば長生きなされたでしょうに。今の私等が初心を教える事等。愚を愚にするだけでしょうに。頭の上がらない方は少なくは無いモノでございます。手を合わせ黙祷する暗闇に愛がございます。愛するでも愛されるでもなく。愛そのものでございます。毎回自分に言い聞かせるように繰り返しています。

店先に移動して、桜の花弁が風に舞い散っていく様を飾り彫りした磨り硝子をはめた、引き戸を横に滑らせて店に入ります。大工さんに作りあげて戴いた樫の卓には、隣り合っ
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