沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
 
と、唯一自分を受け入れてくれた爺婆への情が、綱引きのように、その恐怖を押しやったのでございます。


雨上がりの夜、雲の間から月がのぞき、またすぐ隠れる。


三郎は皮膚のすべてで外界を感じていた。湿った空気の匂い、泥の冷たさ、遠くの森の、深く濃い草の匂い……。彼は人間には見つからぬよう、ぬめりを帯びた影のように、集落へ姿を現した。彼の体は、闇の中で淡く青く光っていたとさ。


「おらが……村長に会って、ダムを造らせねぇように頼んでくる。必ず止める。」


そのぶっきらぼうな声の裏に、小さな不安と、二度と沼へは戻れぬかもしれないという戻らぬ覚悟が、強く揺れていたという。彼は
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