沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
 
実が容赦なく降りかかった。


測量隊が村に入ってきたんでございます。鉄の音、測量器具の金属のきしみ、それに伴う木の葉のざわめきが、静かだった山あいの生活を一変させた。


集落の者たちは、立ち退きを迫られ、怒声や泣き声、奥羽の強い方言での罵りが、村長や役場の人間と交錯した。


「わしらの家を、おめえらは水の底に沈めて、何食わぬ顔で暮らすつもりか!」


「時代の流れじゃ! 諦めるしか仕方ないべ!」


夜、爺と婆は、囲炉裏の炎の揺らめきだけに向かって、静かに話したとさ。


「測量杭が、うちの裏にも打たれただなぁ。あれが、わしらの家の墓標になるんだべか」

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