沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
るものか、川への恐怖によるものか、誰も判別できない。軒先には、カラスが鳴き、その声すらも、湿った空気に重く響く。
平野の村は毎年、川に怯え続けたんでございます。田畑は水に覆われ、作物は腐り、収穫は風前の灯。貧しさは、この土に染みついた古い影のように、村のどこを切っても取れないものとして、全体を覆っておった。
村長は夜更け、誰もいない座敷で徳利を傾け、静かに、しかし、苦い顔で腹を決めた。
―――これより他に道はない。山の中腹にダムを造る。村を救うために。千の命を救うために、百の命を沈める―――
その決断は、小さな集落を水の底に沈めることを意味しておりました。集
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