沼の守り火(河童三郎の物語)/板谷みきょう
 
。集落のそばには、昔から「心の水鏡」と呼ばれる三郎沼があったのさ。


「三郎沼も……いよいよからからに干上がっちまうだのう……」


婆さまの呟きは、水底に沈む小石のように、誰にも届かぬまま、ゆっくりと沼の奥へ落ちていったんでございます。


水の底で、三郎はじっと、じいっと聞いていた。暗く冷たい水の中で、孤独は彼の全身に染みつき、小さな心をぎゅっと締めつけていたとさ。


―――おらの家も……なくなるんだか……。光の届かぬ泥の匂いのする、このおらの居場所までも……?


2. 三郎の孤独な決意
沼の命運と、人間への恐怖。孤独な河童にとって、唯一の家を失う絶望と、
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