業ヶ淵の鬼の話/板谷みきょう
 
その太刀は鬼を斬る。じゃがな……

 ほんとうの鬼は、一番優しい心に棲むもんじゃ。

 もし斬る相手がただの『嘆き』なら、その太刀はさらなる災いを呼ぶ」
 言葉は霧のように胸にまとわりついたが、与一は振り払って故郷へ向かった。
五 あわれなる鬼
 村に戻るや、村人たちは手を合わせて言った。

「与一さま、鬼を退治してくだんせ」

 自らの罪を隠し、誰かに斬らせようとする声だった。
 霧深い朝、与一は業ヶ淵へ向かった。

 竹柵のむこうに、白髪頭の小さな影がうずくまっていた。
「鬼じゃ! やっちくれ!」

 後ろから声が飛び、与一は鬼哭丸を抜いた。
 その音に影が
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