三木卓『わが青春の詩人たち』書評/佐々宝砂
 
も金子光晴は恐ろしい)。

 文中には、詩人たちの印象的なエピソードがいくつも出てくる。ときどき気がちがう長谷川龍生、酒を飲むと目の色が変わる黒田三郎、九州の豪族のようだったという谷川雁……。とりわけ私に印象的だったのは、清岡卓行のエピソードである。清岡卓行の妻が病の床にあったとき、病気であることだけはみなが知っていたが、誰一人その病名を知らなかったという。清岡卓行は、たぶん、とても親しい人にも自分の苦悩を見せなかった、妻の病名さえ明かさなかった。しかしかれは、病んだ妻が亡くなった葬儀では、大粒の涙をこぼしてぬぐおうともしないのである。いかにも清岡卓行らしい話で、せつない。


 四
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