全行引用による自伝詩。 09/田中宏輔2
スミス『帰らぬク・メルのバラッド』3、伊藤典夫訳)
「彼、どうして裸なんだい?」
「裸でいたいからよ」
ゼアはかすかに笑みを浮かべ、やがてその笑みが大きくなった。体の中に笑いがあるようで、周囲の人間たちも笑みを浮かべて、たがいに顔を見合わせ、そしてゼアを見た。
(ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』大森 望訳)
ラ・セニョリータ・ラモーナの家に、そして男たちや女たちの上に霧がかかり、彼等が交わし、いまだ空気の中に漂っている言葉を残らず、一つ一つ、決して行く。記憶は霧が課する試練に耐えられない、その方がいいのだ。
(カミロ・ホセ・セラ『二人の死者のためのマズルカ』有本紀明訳
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