全行引用による自伝詩。 09/田中宏輔2
明訳)
「(…)あいつのあの顔つきときたら、いつだって同じだ。そりゃニクソンだって自分のおふくろは愛してただろうけど、あの顔じゃとてもそうは思えないよな。心で思ってることがうまく表情に出ない顔の持ち主ってのも、哀れなもんだよな」
(アン・ビーティ『燃える家』亀井よし子訳)
そういうことがあって、彼はわたしを愛すると同時に憎んでもいる。わたしは他人が近づきやすいタイプの人間なので、彼はわたしを愛している。彼自身、そうなりたいと思っているからだ。教師だから。彼はある私立校で歴史を教えている。ある夜遅く、彼とわたしがチェルシーを歩いていると、身なりのいい老婦人が自宅の門から身を乗り出して
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