全行引用による自伝詩。 06/田中宏輔2
 
だが、よく見ようと顔を近づけるとたちまち隠された顔が消えてしまう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』女戦士(アマゾネス)、木村榮一訳)

これ以上なにか見抜かなければならないものはなにも残っていなかった。
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』6、菅野昭正訳)

「(…)思い出しますか、昔、断崖の頂きから僕たちが眺めた、あの小さなひとびとの姿、あちこちで点々と砂を穿っていた、あの誰とも知れぬ小さな黒い点のことを?……」
「ええ。あなたがこうおっしゃったことまで思いだしますわ。何年かが、何世紀かが過ぎ、そして浜辺にはいつもあの小さな黒い点がある、次々に代りはする
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