全行引用による自伝詩。 06/田中宏輔2
明るいキャラメル色の眼でぼくをじっと見つめて、低いけれども力強い声で「キスして」と言った。こちらがしたいと思っていることを向うから言い出してくれたので、一瞬ぼくは自分の耳が信じられず、もう一度今の言葉をくり返してくれないかと言いそうになった。しかし、
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』世界一の美少女、木村榮一訳)
実際に見たものよりも、欺瞞、神秘、死に彩られた物語に描かれた月のほうが印象に残っているのはどういうわけだろう。
(カブレラ=インファンテ『亡き王子のためのハバーナ』あるバレリーナとの偽りの恋、木村榮一訳)
その美しい顔の下にもうひとつの顔があるのだが
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)