全行引用による自伝詩。 05/田中宏輔2
で言った。
「この画集を買うだけのことはあったでしょ、ね?」
その言葉がどんなに自分を喜ばせてくれたかを隠したいと思って、彼は軽い《ああ》という感嘆詞を抑えつけた。
(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』6、菅野昭正訳)
「ねえ、ギョーム」と彼女がふいに言った、ときおり見せるあの萎れたと言ってもいいような微笑みを浮かべながら、「そんなふうにして、火のなかになにを見つめていらっしゃるんですの? ……」
なにを彼が見つめていたか? 解きがたく縺れあった彼の権利と彼のさまざまな過ちを。イレーヌにさまざまなことを説明してもらいたいという望み、というよりはむしろ、イレーヌではなく、《誰か》に
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