全行引用による自伝詩。 05/田中宏輔2
 
のは壁でも天井でも床でもなく、会話を交わし、笑い声をあげ、愛情や憎悪を抱きつつそこで生を営む人間なのだ、非物質的とはいえ深遠な何か、顔に浮かぶ頬笑みのように物質的ではない何かで家を満たす人間なのだ、むろん、それは絨毯とか本、あるいは色といった物質を通して表に現れる。なぜなら、壁に掛けられた絵、ドアや窓に塗られた色、絨毯の模様、部屋に生けられた花、レコードや本といったものはそれが物質であるとはいえ(ちょうど唇や眉が肉体に属しているように)、魂を表明するものだからである。つまり、魂は物質を通さずにはわれわれの物質的な眼に現れることがない、これが魂のもつ一つの脆(もろ)さであり、また、奇妙な精妙さである
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