全行引用による自伝詩。 05/田中宏輔2
 
さまざまな狂信者とかかわりあったため、ヘレンは鋭い人間観察家に成長していた。人びとの筋肉には各人の秘めたる歴史が刻まれており、道ですれちがう赤の他人でさえ、(本人が望むと否とにかかわらず)そのもっとも内なる秘密を明かしていることを、ヘレンは知っていた。正しい光のもとで注意深く観察しさえすれば、その人の日常を彩る恐怖や希望や喜びを知り、その人がひた隠しにしている肉体的快楽のよりどころと結果を見抜き、その人に影響を与えた人びとのおぼろげな、しかし長く消えることのない反映を読みとることができるのだ。
(コードウェイナー・スミス『星の海に魂の帆をかけた女』5、伊藤典夫訳)

(…)骨と肉だけが顔を作
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