全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
 
バーグ『〈教皇〉ヴァレンタイン』下巻・第三部・4、森下弓子訳)

「君の自転車はなんて名前なの?」
 男の子は返事もせずに顔を伏せたが、やがてひどく早口で言った。
「ミニ」
「とてもきれいだね」モンドは言った。
(ル・クレジオ『モンド』豊崎光一・佐藤領時訳)

 名前というものにはふしぎな力がある。なにかに名前をつけると、たとえそのなにかが目の前になくても、それについて考えることができるのだ。
(ジョン・クロウリー『ナイチンゲールは夜に歌う』浅倉久志訳)

 エメリアにも再会した。ずっと美しいエメリア、そう、どんな思い出よりも美しく、けっして言葉だけの存在ではないエメリアはス
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