全行引用による自伝詩 01/田中宏輔2
 
口をとがらせたりすればするほど、隠れているべつの人間の存在がますますリアルになってくる。
(アン・ビーティ『愛している』16、青山 南訳)

 ここでは、顔があくびをし、物をほおばり、また傷あとをとどめ、愛と見えるものに焦がれ、金切り声をあげている。どれもが千の顔のひとつであり、二度と見ることはない。
(サミュエル・R・ディレイニー『アインシュタイン交点』伊藤典夫訳)

 あのすべてはどうなったのか? また、そのほかの誰も知らないことども。たとえば母親の眼差し、愛にあふれ、しばしば彼の上で安らっていた眼差しは、もしかするとゲオルクの善良さのなかに生きつづけていたのではなかったのか。彼の
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