真紅の門からひろがる空漠をぬけていく南風/菊西 夕座
歴史ばかり雄弁な片割れ石碑のどこにも書いていないが
多賀城の南門から素足をのぞかせた未開の少女が入ってきて
わたしの首になめらかな両腕をかけて影へみちびきいれた
そのときからわたしの胸には真紅の門が虹のようにかかり
涙で半円にえぐれた二条の水路を北にながく延ばしながら
せわしい時代から切りとられたまま丘陵で口をあけている
エミシとのまじわりに備えて盛った鎮守もいまは空漠の園
生活道路は城門のまえで横向きに据えられてしまい
知能をそなえた車が案内するのは合理的な知識ばかり
欠けた時代の反映を受け入れる口にこそ真の繁栄はめざめ
腕をまわしてくれた少女だけが風をつれて門を通りぬけ
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