ことばの美はどこに隠れている/室町 礼
 

で、結局わたしがこの30年のあいだに買った小説はわずか一冊だけで
した。アーサー・ゴールデンの『さゆり』です。いつものように、
ジュンク堂で矢継ぎ早に本を抜いては戻しながら「やっぱりだめか」
と半ばあきらめていたところ、ストンと手がとまる小説があった。
その文体たるやワンパタの翻訳ものの文体とはまるで違うことが一
目瞭然だった。まるでほんの少し脚に疲労がきているような泥だらけの
百姓がごつごつした節だらけの手で書く小説、といえばいいのか、
そういう手でこつこつ書いている文体だった。
これはたまらないと思いました。内容なんかどうでもいい。これなら
一日二十四時間、毎日でも読め
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