机の上に射し込む光の川/道草次郎
わせていない。若い頃に足繁く通った古本屋の新潮文庫コーナーや、図書館の開架図書を上から下まで舐めるように眺めて過ごした暗鬱時代が上っ面の文学詳しいっぽいおじさんを作り上げたに過ぎない。
彼女はまだまだ話足りない事がわんさとあるんです、という顔で時計に眼をやったが、職員たるぼくの状況を察してくれて、「あ、お時間すみませんでした。」と言い、そそくさとタイムカードを切り風のようにいってしまった。
彼女からは何度か手紙や好きな英文のフレーズを書いたメモを受け取った。ある時は自作のエッセイ集まで。そのどれもが、紙の上に灯る小さな青い焔のようだった。
その一方で、ぼくは日々「わからないこと」
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