机の上に射し込む光の川/道草次郎
態とリストカットに苦しんでいる。そして、そのことがあまりに平常化したせいで、彼女の訴えは、日常の食器のように事業所の空気に馴染んでしまっていた。
ぼくの仕事は何らかのハンデをもつ十人近い数の利用者を就職へ導くこと。だから、普段は認知行動療法だとか、リフレーミング、アサーションなどの言葉を使いその人たちと就職に関する面談を、日々、重ねている。
つまり、本来なら、彼女のように通所さえままならない人は対象外だ。だが、時々ぼくはすき間の時間を見つけては彼女に話かけることにしている。
じつは、堀口大學もドリス・レッシングも石牟礼道子も、ぼくはほんのささやかな書誌的な知識しか持ち合わせ
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