机の上に射し込む光の川/道草次郎
 
毛色が違ってるよね。おもしろくない?」

 途端に彼女も気色ばんで、
「私、『苦海浄土』を読みました。じつはドキュメンタリーは苦手だったんですが、表現が豊かで凄かったです。」
「そうなのだね。ところで、あの長いのを全部読んだの?石牟礼道子さんのあの有名な?」
「はい。一か月かけてよました」
「そうなのだね。それは驚いた。ドリス・レッシングが文学賞を受賞したのに、何で石牟礼道子はとらないのかね、フシギダネ」

 彼女は丸い眼鏡の奥の栗鼠みたいな眼をパチクリさせる。「そうですね。ドリス・レッシング知らないな…今度読んでみよ」

 彼女はここ数ヶ月、いやここ数年を希死念慮とうつ状態と
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