霧子の朝に 夜の変貌/洗貝新
手探りに歩いている
何かやわらかなものに触れたような気がして
それは母の乳房だった
まだ若い母は哀しそうに娘を抱いていた
山積みにされた古い写真の中でも
あの一枚は記憶に眠っている
長女の後を追うように
次男が亡くなっていた
そして僕たちが生まれた
長男がときどき思い出しては話しをするが
僕たちには何も残ってはいなかった
日々色あせていく写真に季節を巡る人々
こころの中を
霧が塞いでいく
白い房をぶら下げて咲いていたリュウゼツランの花が
今年は抜け落ちた白髪のようだった
その日は夜の配達をはじめてから半年が経ち
母が亡くなってから三年が過ぎた
薄暗い
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