図書館の掟。/田中宏輔
 


それが
やがて死者たちが
自分の記憶を語ることができないようになる要因のひとつであった。


生者と生者との逢引はこれを禁ずる。


これは大事な図書館の掟の一つであった。

死者たちは動揺していた
恋人たちの睦言に。

大いなる嫉妬の嵐が
死者たちの胸のなかを吹き荒れていた。

図書館の天蓋の窓ガラスから落ちてくる月の光が冴え冴えと
目をつむって眠ったように死んでいる
死者たちの白い死衣にくるまれた身体を照らし出していた。


     *


両手が鎌になっている死者たちが
リングの中央で切りつけ合っている。
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