図書館の掟。/田中宏輔
 
だった。
女は立ち上がって部屋を出た。
部屋の外には死者を目覚めさせ
眠らせることのできる死者の女がいた。
この死者は自分の方からしゃべることができ
またウィルスに感染しないのだった。
その死者の女は生者の女と入れ替わりに部屋に入ってきた。
生者の女は隣の部屋に入った。
「たしかにわたしの夫の記憶が転写されています。
赤の他人が夫の記憶を持っているなんて耐えられないわ。」
係官はうなずきながら
記憶転写ウィルスがどれだけ正確に記憶を転写させているか
チェック項目にしるしをつけていった。


     *


ウィルスに感染した十人の死者たちが火葬にふされた。

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